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大阪高等裁判所 昭和49年(う)226号 判決

被告人 佐藤英夫

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中、原判決が算入した未決勾留日数と併せ原判決の刑に満つるまでの分を、その刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人及び弁護人香月不二夫のそれぞれ作成にかかる各控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は大阪高等検察庁検事赤池功作成の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。

被告人の控訴趣意中法令適用の誤りの点について。

論旨は、原判決は判示第二において接着剤で導火線を接合して一体とした爆竹一四〇本ないし一五〇本に点火して爆発させたとの事実につき、火薬類取締法五九条五号、二五条一項を適用しているが、右爆竹の一本当りの薬量ががん具煙火の基準以下であれば、たとえその本数と総薬量が大きくとも、知事の許可を要しないのであつて、本件において一八連(一連は八本)程度の爆竹をつないで使用したからといつて、知事の許可を要するとして前記法案を適用して処断した原判決は誤りであるというのである。

しかし、右所論は被告人が原審において主張していないところであるのみならず、火薬類取締関係法令を検討すると、爆竹は火薬類取締法二条一項三号に定める火薬類である煙火であり、ただ通商産業省令で定めるものは除かれており、同法施行規則一条の五第一号へ(5)によると「爆竹(点火によつて爆発音を出す筒物を連結したものであつて、その本数が三十本以下のものに限る。)であつて、その一本が火薬一グラム以下、爆薬(爆発音を出すためのものに限る。)〇・一グラム以下のもの」は同法二条二項に規定するがん具煙火とされているから、右基準以下の爆竹に限り、その消費について同法二五条一項の都道府県知事の許可を要しないと解せられる。しかし、本件爆竹は、一本の薬量は〇・〇九グラムであるけれども、その本数は右施行規則所定の三〇本をはるかに超える一四〇本ないし一五〇本ということであり、しかもそれは接着剤で全部の導火線を接合して一体としたものであるから、一本ごとにみればその薬量が右規則の基準以下であつても、これを全体としてみるときは、前記「がん具煙火」の範疇を著るしく超えており、まさしく同法二条一項三号へ所定の煙火(通商産業省令によつて除外されないもの)にあたるといわれなければならないから、原判示第二の被告人の所為につき、それが同法二五条一項の規定に違反し、許可を受けないで火薬類を爆発又は燃焼させた者にあたるとして、同法五九条五号を適用した原判決に誤りはない。論旨は理由がない。

被告人の控訴趣意中事実誤認の点について。

論旨は、被告人は公判傍聴のために合法的に裁判所へ入つたもので、爆竹を所持していたのは公判後に屋外の集会で気勢をあげるために用意していたにすぎず、たまたま法廷で廷吏が傍聴人に暴行するのを見聞して、仕返しに爆竹を仕掛けたのにとどまり、あらかじめ爆竹をしかける目的で法廷へ侵入したものではないといい、建造物侵入罪を認定した原判決の事実誤認を主張するのである。

しかし、右所論についても被告人は原審において主張しないところであるのみならず、本件記録を精査し、原審において取り調べた証拠を検討するに、原判決が原判示第一の事実につき挙示する証拠に、なお、(証拠略)をも総合すると、被告人は原判示五号法廷で行われる若宮正則らに対する殺人未遂等被告事件の公判傍聴に赴いたが、裁判所構内に立入る前から、機会があればその構内又は庁舎内で爆竹を爆発させることを決意しながら、その真意を秘し(ただし松村一雄は被告人の右決意を察知しながらこれに加担するつもりで同行)、原判示爆竹をかくし持つて同構内から東新館に入り、さらに公判審理中の五号法廷に立入つたものであることが認められ、とくに右法廷に立入る前には、傍聴人の一人が裁判長から退廷を命ぜられ、裁判所職員から実力で退廷させられたことを聞き、これに対する報復のためにも法廷内で爆竹を爆発させようと考え、右松村に点火役を命じたうえ右爆竹を所持したまま入廷したものであることが、当審公判廷における被告人の供述によつて明らかである。右事実によると被告人は庁舎管理者の承諾の限度を越えて違法目的のために建造物に立入つたもので、その行為は裁判が行われている建造物(とくに法廷)の平穏を害する態様のものであるというべきである。したがつて、被告人は原判示大阪地方裁判所東新館五号法廷に侵入したものであるとして、建造物侵入を認めた原判決の事実認定に誤りはない。論旨は理由がない。

弁護人の控訴趣意について。

論旨は原判決の量刑不当を主張するのであるが、記録を精査して検討するに、本件は被告人が松村一雄と共謀のうえ、審理中の法廷内で爆竹をしかけて爆発させる目的で、接着剤で導火線を接合して一体とした爆竹約一四〇本ないし一五〇本をかくし持つて原判示東新館五号法廷に侵入し、同法廷内傍聴席右最後列長椅子の下附近に、煙草の火を利用した時限装置を設けた右爆竹を仕掛けてその場から逃げ出し、その数分後、閉廷直後でまだ弁護人や裁判所職員らが在廷する右法廷内で右爆竹を爆発させたもので、右犯行の動機、態様に照らすと、その犯情は悪質であり、所論の諸点を十分考慮しても、原判決の量刑が重すぎるとは考えられない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における未決勾留日数の算入につき刑法二一条を、当審の訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑事訴訟法一八一条一項但書を各適用したうえ、主文のとおり判決する。

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